トップページ > 研究内容 >
toppage

research

seminar

member

access

photo

link

helpwanted

超低温の作り方

 我々の研究室では絶対零度近くの超低温度を実現して,そうした極限環境下でみられるさまざまな量子現象の実験研究を行っています。物性物理学で低温環境を実現するということは,高温の乱雑な熱運動によって覆い隠されていた物質それぞれの個性を浮き彫りにするという重要な意味を持ちます。超伝導や超流動などの不思議な現象はその最たるものです。ですから,超低温物理学とは物質固有の量子状態を探求する基礎研究なのです。

temperature

 上の図は物理現象をそれが起こる温度(対数表示)で示したものです。我々の実験室では100μK(マイクロケルビン)以下、つまり絶対零度から1万分の1度しか離れていない温度まで試料を冷却することができます

 このような低温をどのように作り出すのかについて次に紹介したいと思います。

冷却原理

 我々が100μK以下という超低温度を作り出すとき用いる 3He-4He 希釈冷却法と核断熱消磁冷却法という2つの冷却手段はそれぞれ次の簡単な冷却原理と同じことなのです。

A. 蒸発に伴う潜熱

 
B. 断熱膨張
uchimizu
 
cloud
気体となって蒸発するときに潜熱を奪うので液体の熱エネルギーを奪い液体の温度が下がる(打ち水の原理と同じ)
 
断熱状態で気体が外部に対して仕事をすると,内部エネルギーが下がるので温度が下がる(熱力学第1法則より)

 

3He-4He 希釈冷却法

phase_diagram

 上の図は 3He-4He の混合液体の相図を示したものです。3He-4He 混合液体をたとえば左図の矢印に沿って低温に冷却すると、3He 濃度の濃い濃厚相と、薄い希薄相の2相に分離します。しかし,通常の混合液体とは違い,絶対零度ですら希薄相には3Heが約7 %程度混ざっているという特徴があります。

 希薄相の4He 成分は超流動状態にあるので,十分低温では熱的には真空状態とみなすことができます。そこで,何らかの方法で濃厚相にある3He を希薄相へと”蒸発”させれば,それに伴う潜熱を奪うことができるのです。また,”蒸気圧”に相当する3He 溶解度が T = 0 でも有限(約7%)に止まるので,単に液体3He を蒸発冷却する方法のように冷却力が低温になるにつれて温度の指数関数で急減することもなく,超低温度まで比較的大きな冷却力を保ちます。実際の 3He-4He 希釈冷凍機は以下のように巧みな仕組みで 3He を濃厚相から希薄相へ”蒸発”させて,低温を生み出しています。

dilution

 上図のようにヒーター加熱で 0.7Kに温度を保った分留器内から,蒸気圧のより高い 3He を選択的に蒸発させます。すると混合器との間に 3He 浸透圧に差圧が生じて,混合器内で濃厚相から希薄相への 3He の”蒸発”が実現します。分留器から蒸発した 3He を再液化して濃厚相へと戻すことで,連続運転を可能にしています。このような仕組で,約 10mKまでの極低温を定常的に得ることができます。

 

核断熱消磁冷却法

  核断熱消磁冷却法は金属(通常は銅)の核スピン(原子核がもつ固有磁気モーメント)のエントロピーを以下の図のように外部磁場でコントロールできることを利用した冷却方法です。

nuclear_entropy

 まず大きな磁場(図では 8T)をかけて 3He-4He 希釈冷凍機で予冷することで,銅の核スピンのスピンエントロピーを下げます(図中(1))。
 次に系のエントロピーを一定に保つよう銅を断熱状態にして,磁場を下げる(消磁する)と図中(2)の経路に沿って温度が下がります。消磁過程ではスピン系が磁場に対して仕事をしたことになっているのです。
 (1)の過程が圧縮した気体を冷却することに対応し(2)の過程が断熱膨張させることに対応しています。

 我々の開発した核断熱消磁冷凍機の場合,銅の核スピン系に超伝導マグネットで磁場を 8T(テスラ)印加し,3He-4He 希釈冷凍機を使って 12mK 程度まで予冷します。その後,超伝導熱スイッチを開にすることで系を断熱状態にして消磁することで,最低温度 51μK を実現しています。現在世界中に 100台近い同様の核断熱消磁冷凍機がありますが,このような超低温まで試料を冷却できるものは 3,4台しか存在しません。実際の装置の写真と冷却過程を以下に示します。

NDR_all     51uK_Demagcooling

○ 参考記事 ○

 理学部研究ニュース「マイクロケルビンの世界 福山寛」

>> ページトップ


gelb
copyright