トップページ > 研究内容 >
toppage

research

seminar

member

access

photo

link

helpwanted

超流動ヘリウムの不思議

 ヘリウム(He)原子は質量が小さいために零点振動による運動エネルギーが大きく,圧力をかけない状態では絶対零度でさえ固体になりません(量子液体)。下の図は,窒素分子N24Heの状態相図を比べたものです。液体4Heの場合,相図にあるとおり約2 K以下で超流動相という非常に興味深い状態になることが知られています。

phase_n2.jpg

図1 窒素 (N2)の相図

phase_he.jpg

図2 ヘリウム4(4He)の相図

ラムダ転移

 超流動状態では通常の液体では考えることのできない不思議な現象が沢山見られます。まずは,液体4Heが超流動転移(ラムダ転移)する瞬間を下のビデオで見てください。

図3(ムービー) ラムダ転移(超流動転移)

 液体4Heの沸点は1気圧下で4.2 Kですが,その蒸気を真空ポンプで減圧すると,蒸気圧曲線に沿って液体の温度が下がります。最初は通常の液体のように液中のあちらこちらから沸騰している様子が見られます。ところが,減圧を続けてさらに温度を下げると,超流動転移点(ラムダ点と呼ぶ)であるTλ = 2.2 Kで沸騰がピタリと止むという劇的な変化を示します。

 この現象は超流動 He の一つの特徴である桁違いに大きい熱伝導度のために,液体内の温度の不均一(揺らぎ)が生じなくなって沸騰が止み,蒸発が液面からだけに限られるからです。激しく沸騰していた液体4Heが突然静かになり,液面が鏡面のようになる。この現象は肉眼でガラスデュワー越しに見ることができ,感動します。


2流体モデル

  超流動状態では,粘性が桁違いに小さいので,通常の液体ではとても通過できないような小さな穴でも通ることができます。ガラス管の底をチョークでふたをし,その上に常流動状態の液体4Heを満たしておきます。チョークの粉の粒径は数100 nmと小さいので,この状態で液が滴り落ちることは決してありません。こうした粉体のことをスーパーリークと呼びます。そこからHe蒸気を減圧して温度をラムダ点以下にすると,液体4Heはチョークの中をすり抜けて下へポタポタと漏れ出てしまいます。その様子を下のビデオで見て下さい。また,液の落ちる速さは減圧を続ける(温度を下げる)ほど早くなります。

図4(ムービー) スーパーリーク(常流動)

 上の実験で温度を下げるとチョークを通り抜ける液体の速度が大きくなるという事実は,超流動Heのもつ重要な物理を示しています。実は,ラムダ点以下の超流動状態は超流動成分と常流動成分の2成分が混ざり合った状態にあるのです。これを2流体モデルといいます。超流動成分は4Heがボース・アインシュタイン凝縮した結果生まれたものです(注)。また,常流動成分はラムダ点以上の液体と同じ性質を持っています。この2成分の割合が温度に対してどのように変化するかを以下に示します。

2-fluid

図5 超流動成分と常流動成分の割合の温度依存変化

 この図から分かるように,低温になるほど超流動成分の割合が多くなります。スーパーリークの実験で温度を下げるとチョークを通り抜けるヘリウム液体の量が多くなるのはこのためです。

(注) 液体4Heは気体と違って原子間の相互作用の効果が大きいので,凝縮体はT = 0でも運動量ゼロのまわりで一定の分布を持ちます。

 

フィルムフロー

  フィルムフローとは,超流動Heが容器の壁を目で見えない程薄い膜となって這い上がり,容器内外の液面の高さが同じになるまで流れる現象を言います。まずは下のビデオを見てください。

図6(ムービー) フィルムフロー(常流動)

 この映像で中央のガラス容器には超流動4Heを上端付近まで満たしてあります。通常の液体ではこの状態で液体がこぼれ落ちることはありません。粘性が大きいために液体分子は壁や他の分子と強く相互作用してガラスの壁を這い上がれないからです。しかし,超流体の場合はある臨界流速までは粘性がゼロなので,He 原子はかなり速い速度(最大で毎秒数十 m!)で壁を這い上がり,外壁を伝って容器下端からポタポタとこぼれ落ちてしまうのです。

 

噴水効果

  噴水効果の原理は浸透圧の原理に似ています。超流動Heを以下の図のようなスーパーリーク(超流動成分しか通すことができない細孔体)で隔てられた2つの容器に入れておきます。ここで,右側の容器の液温をヒーターで上昇させると,2流体モデルから分かる通り,2つの容器間で超流動成分と常流動成分の割合は異なります。そうすると,この違い(化学ポテンシャルの差)を打ち消そうとして超流動成分が,温度の低い方から高い方へ,つまり超流動成分の多いほうから超流動成分の少ない方へと流れ込んでくるのです。この効果は温度差ΔT をつけることで2つの容器間に圧力差ΔPを生じるので熱機械効果と呼ばれ,次式で表されます。

ΔP = rSΔT(1)

ここでrSは液体4Heの密度と単位質量あたりのエントロピーです。

threm-mechanic

図7 噴水効果の原理(熱機械効果)

 例えば下右図のような下端にスーパーリークを詰めたガラス容器内の液温をヒーターや白熱灯で上昇させると,上端から噴水のように超流動Heが噴出します。これが噴水効果です。ビデオ(下左図)では,照明によって昇温した超流動Heが弧を描いて細いガラス容器の先端から噴き出る様子が見られます。この噴水の勢い(生じる圧力)は容器内の温度上昇の大きさで決まります。

 fountain

 

図8(ムービー) 噴水効果(超流動)

 以上のように超流動Heは非日常的で興味深いさまざまな性質をもっています。超流動現象は多くのボース粒子が同じエネルギー基底状態を占有するボース・アインシュタイン凝縮(Bose-Einstein Condensation : BEC)と深く関係しています。4He原子はボース粒子であり,液体の密度は高いので 2.2 K という比較的”高い”温度で BEC を起こします。

< ビデオ製作 >

 高吉慎太郎,小田啓太,伊與田英輝,小畑和幸,河合直樹

>> ページトップ


gelb
copyright